Bitter Sweet

ときめきたいったらありゃしねえ

先ずはデニムの裾を捲るのに躊躇してから









ほんの一週間程前から降り始めた雪が猛威を振るって、1日に2、3回は雪掃きをしなければならない。 駐車場の入り口が塞がる。
身勝手な除雪機が遠くから持ってきた汚い雪を垂れ落としながら家の前を通る。 さっき見た景色がまた広がる。しかし、雪の色は黒い。

折角早起きして雪掃きをした僕のおでこに 無駄 という判を押し、やかましく去っていく。



とうとう細い方のミサンガも切れた。
ただの汚い糸だったけれど、左手の違和感を拭い切ることは出来ない。
やけに軽い左側が吹き飛んでしまわないか気を遣いながら過ごす日々にひどく疲れる。
 左手にミサンガが巻いてある という意識か、はたまた思念の重さかわからないが何か途轍もなく大きく、大事なものがふといなくなってしまったようで悲しい。

どうせまた、邪魔で、汚くなって、臭くて、濡れると厄介な 編んだだけの糸を左手首に着けるんだ。 たったそれだけで何かの為に生きてるとか、何かがあって生きてる気がするんだ。




































































♪コンビニララバイ/クリープハイプ

亀状態



少しの坂で息があがり、白く変装した二酸化炭素が顔を見せる。
リュックの紐から押し潰された肩が悲鳴をあげる。










先週末、自宅で祖母が転んだ。 文字で書くとこんなにもあっけからんとしているのか。

部屋のドアを開けて、スリッパを履こうとしたところ、つまづいて受身も取れずに転倒した。
結果、幸い骨に異常はみられず、背中と腰の筋肉を痛めただけで済んだのだが、本人は歩くのもなかなか難儀な様だ。




僕には大問題だった。 学校で、高齢者の日常的な怪我は寝たきりに繋がり、痴呆にも繋がる恐れがあると聞いた事があるから。 瞬間的で身体的なケアは拙くも出来るが、慢性的に続く個人的な身体状態と精神的なものに関しては如何しようもない。

まあそうはいえど、先ほど述べた通り口にしたり文字にすれば全く大したことではない。 我々もその「大した事の無い事象」として捉えてこれまで過ごして来たのであるから、世の中の常識の通り、きっと事実もそうなのであろう。
ましてや、僕に出来る様な事であれば、犠牲など厭わない。

実際に身近に起きた場合、日常がほんの少し崩れた場合、しかも被るのが他人の場合、僕は最悪の状態を想像する癖がある。 
こうなるのが嫌だからこうする。 として生きてきた僕は、突発的なトラブルや事案に上手く対応出来ない。 自分では如何しようも出来ない領域に及ぶ問題を前にして、ただただ辟易する事しか出来ない自分の無力さに絶望する。


いつも通り歩けず、何やら苦い顔をしている祖母を見ながら、 可哀想 と 申し訳なさ でいっぱいになる。
頼む、痛くない振りをしてくれ。 出来れば笑ってくれ。
そう思う程に益々自分自身が追い詰められていく。






手も足も出ない僕の顔が、手摺に摑まりながら歩く祖母の背中に透けて見える。 祖母と同じ様な顔をしている。












1週間が経ち、折角良くなってきたと思ったら、今日また、状態を悪化させる事象が起きた。1日目より痛みが酷いようだ。

僕はまだ、上手く歩くことが出来ない。





































































♪二十九、三十/クリープハイプ




タイトなジーンズにねじ込みたくない







雲の直ぐ下に住んでいる。
耳朶の下を潜り抜ける風を感じながら、もう会う事は無いだろうなと気持ちが少し落ち込む。

最近は曇天しか見ていない気がする。 動きも鈍くなる様な気がして、関節の動きが悪くなる。








下書きをしている間に年が明けたようだ。
元旦の朝、ベッドの中で原因のわからない鈍痛が右膝に走った。
一富士も、二鷹も三茄子も見たことが無い僕には何もめでたい事なんて無く、ただただ地に足をつけて平常心を保つ事に努める日々である。

とはいえ、挑戦の一年。
何かと良い年になれば良いなと思う。


出来ない事に向き合う事は誰だって億劫だし、やれない事に挑む事は誰だって不安だ。
自分も、環境も、価値観も変わってく。
今の、22歳の自分に出来る限りの事をやるしかない筈。

雑踏と喧騒に揉まれながら、の一年のはじまりである。






































































♪ハナノユメ/チャットモンチー

右頬をさすりながら











諸用があって早起きした。 窓を覗けばほんの少しだけ小さい白の塊がちらついていて、一つ奥の山のてっぺんが真っ白になっていた。いい匂いがした。
事ある毎に噛み合わせを気にする。もう長い事違和感のある右の奥歯を気にかけながら、今日も1日が始まる。


自宅の目の前のバス停に丁度バスがやってきた。 近所のリハビリセンターに通う彼が、車椅子に乗ってバス停の横に停まった。
きっと、数え切れないくらいバスを利用しているのだろう。片田舎のバスに昇降スロープなどというものがある筈もなく、運転手はほとほと愛想の尽きた様な表情をして、車椅子の前輪を上げた。 そんなに露骨な顔をしなくても良いのに、折角いい匂いがしたのに、。


今日1日、の2人の気持ちを
今日1日、僕が勝手に気にかけて
今日1日、何だかどんよりしたまま過ごす。









噛んだ覚えのないストローに歯跡が付いているのを見た時、口いっぱいに含んだレモンティーで口の中を濯いで、そのまま、飲み込む。
ほんの僅かな渋味と酸味で、滅菌した気になる。 

心なしか奥歯の痛みが増した様な気がしたが、今日1日、どんよりするよりましである。







































































♪食卓/tricot



塩辛定食を背負って








病院の廊下を、 しゃん としながら歩いた。
誰も僕を見る事はしなかった。

もう使わなくなったテレビカードを清算するために、ナースステーションの横を抜け、休憩室の入り口の横にある清算機へと向かった。
残金は七百何円だった。  
殆ど使ってないなぁ。 そう思った瞬間、緑色に発光した数字が急に滲んだ。



千円分のカードの内、使った三百円程は恐らく、昨日の夜に夜通し付き添った婆ちゃんが深夜の眠気と現実を吹き飛ばそうと使用したものだろう。
爺はテレビ、見れるような状態じゃなかったもんなぁ。

テレビカードを清算して、部屋にかえってきた頃には沢山の親戚が狭い個室に押しかけていた。
薬を飲んで咳ばかりしていた為か、異臭が漂う病室の匂いと親戚中の古めかしい匂いがひとつの部屋で混ざり混ざって鼻の奥を刺激した。




「4の付いた部屋ってないね」
「当然でしょ、縁起悪いもん」
以前は納得していた。極限まで追い込まれた人間と家族の気持ちを精一杯汲み取った故の予防策なのだと。

でもほら、どうだ。
4の数字が入った部屋じゃなくても人は死ぬ。
所詮は生きた人間が死にゆく人間の為に作った自己満足な決まり事なんだろう。








違う。悪いのは誰でもないのだ。むしろ病院ではない事は誰が見ても分かる程だ。 

土壇場にきて、他人を卑下する事でしか自分を保てないのはやはり寂しい。




鮮明に憶えているのはここまでだ。
後は忙しくて肝心な所は記憶に無い。

ただ、爺は沢山の人の記憶の中に存在していたんだなぁ。と、全く知らない親戚や知人が訪ねてくる度に思った。愛されていたのだろうか。そうだといいなぁ。わざわざ来てくれたのだから、きっとそうであると信じたい。







最近めっぽう寒くなったのはただただ気温のせいなのか。
家族全員がほんの僅かなささくれだった違和感を共有しながら、これからも日々は続いていく。













































































♪霹靂/BRAHMAN


振り抜け、さらば与えられん








ミサンガが、切れた。






4年前から左腕にミサンガを二本つけていた。
太いやつと、細いやつ。
そのミサンガは石巻へい輪プロジェクトで作られたもので、被災にあった漁網を使って作られたものであった。
一つ一つ丁寧に包装されたその袋の中には、内職でこのミサンガを編んでくれたお母さんの名前が記載されていた。
4年前の僕は当時先が見えなかった復興の願掛けをして、固い結び目を作った。


これまで余った紐の部分が千切れたりはしたが、長い間結びが切れる事は無く、それは嬉しくも悲しくもあった。

買った時に「これは三陸沖の網で作られたものなので、もし切れた時は海に還してあげるといいですよ」と言われた。

これでまた、行く理由が出来た。
そして新しいのをまた買って手首に付けたい。願いと、決意と一緒に結びたい。
二つ目だから、少し欲張りな御願いを結んでも良いだろうか。
もっともっと笑える様になって欲しい。




少し涼しくなってきたけれど、海辺まで行って、裸足になって、元の海に還しに行こう。

宙ぶらりんになったボロボロの紐と網の塊には机の上はやはり似合わなくて、青々しい三陸の海が越しに透けて見える様だ。




















































You say GOOD BYE/SpecialThanks


大湿気時代




東北は未だ梅雨明けしていないらしい。
本日、37度。
こんな梅雨もあるのだなと腋汗を滲ませながら思う。


クーラーの風に当たると何だか体と、地球に悪い気がして、専ら僕は扇風機派だった。だが幾ら強のボタンを押したとていつもの冷たい風が吐き出されるわけでもなく、周りの熱を巻き込んだ温く、気怠い空気の塊をぶつけられるだけだ。

今年の夏、いや梅雨は、暫しクーラーに頼らざるを得ない。人工的に排出した、やけに産業的な冷気を体に受けつつ、現代社会の暑さに負け、地球温暖化を加速化させてしまっている志の弱いその他大勢の内の一人になってしまったという罪悪感と嫌悪感に塗れて日々を乗り過ごすしか無い。

































































♪My Instant Song/MONOEYES