Bitter Sweet

ときめきたいったらありゃしねえ

塩辛定食を背負って








病院の廊下を、 しゃん としながら歩いた。
誰も僕を見る事はしなかった。

もう使わなくなったテレビカードを清算するために、ナースステーションの横を抜け、休憩室の入り口の横にある清算機へと向かった。
残金は七百何円だった。  
殆ど使ってないなぁ。 そう思った瞬間、緑色に発光した数字が急に滲んだ。



千円分のカードの内、使った三百円程は恐らく、昨日の夜に夜通し付き添った婆ちゃんが深夜の眠気と現実を吹き飛ばそうと使用したものだろう。
爺はテレビ、見れるような状態じゃなかったもんなぁ。

テレビカードを清算して、部屋にかえってきた頃には沢山の親戚が狭い個室に押しかけていた。
薬を飲んで咳ばかりしていた為か、異臭が漂う病室の匂いと親戚中の古めかしい匂いがひとつの部屋で混ざり混ざって鼻の奥を刺激した。




「4の付いた部屋ってないね」
「当然でしょ、縁起悪いもん」
以前は納得していた。極限まで追い込まれた人間と家族の気持ちを精一杯汲み取った故の予防策なのだと。

でもほら、どうだ。
4の数字が入った部屋じゃなくても人は死ぬ。
所詮は生きた人間が死にゆく人間の為に作った自己満足な決まり事なんだろう。








違う。悪いのは誰でもないのだ。むしろ病院ではない事は誰が見ても分かる程だ。 

土壇場にきて、他人を卑下する事でしか自分を保てないのはやはり寂しい。




鮮明に憶えているのはここまでだ。
後は忙しくて肝心な所は記憶に無い。

ただ、爺は沢山の人の記憶の中に存在していたんだなぁ。と、全く知らない親戚や知人が訪ねてくる度に思った。愛されていたのだろうか。そうだといいなぁ。わざわざ来てくれたのだから、きっとそうであると信じたい。







最近めっぽう寒くなったのはただただ気温のせいなのか。
家族全員がほんの僅かなささくれだった違和感を共有しながら、これからも日々は続いていく。













































































♪霹靂/BRAHMAN