裸眼のピントが合わなくて
今日、昨日か。衝撃的な出来事があった。
動悸が激しくなって腋の下にじんわり汗をかいたところでやっと、気付かないうちにほんのそこまでやって来ていた事に気が付いた。
実を言うと薄々感じていたのだろう。だが、見て見ぬ振りをしていた。実際白衣を着た他人からそう確信めいた事を言われると大変なことだと強く実感した。
でも、そんなに、思ったより取り乱したりしなかった。いや、できなかったという方が些か正しいだろうか。
それを聞いたのは妻である婆ちゃんからだったし、それに 気丈に振舞っている僕 を演じなければ何か大事な部分が抉り取られそうな気がした。
そんなことを思っていると、また自分のことしか考えることが出来ないのかと何処までも生温い自分を磔にしたくなる。
尚且つまた自分はこんな大変なときに、いつもと同じ様な考えを巡らせることしか出来ないのかと磔ごと焼き払いたくなる。
1週間前程から降り始めた東北の雪と何処までも続く雪色の空が憂鬱である。
絶望と虚構の狭間でどっち付かずに揺れている僕を厚い雲の向こう側からそいつが覗いている気がしてならない。
卑怯者め。出てこい。
出来ることならレントゲン写真から黒いそいつを引っ張り出してシュレッダーにでもかけてやりたいがそうもいかない。
僕は医者ではないから治しようがない。大事な人の全てを赤の他人に委ねることしかできない。
僕に何が出来るんだ。
他人の気持ちも知らず、講義中にも関わらず除雪機のような汚い鳴き声で喚く斜め後ろに座ったアイツの、白くか細い首を絞めれば或いは。
今ばかりよりは誰かの役に立てるのではないだろうか。
♪露命/BRAHMAN