Bitter Sweet

ときめきたいったらありゃしねえ

右頬をさすりながら











諸用があって早起きした。 窓を覗けばほんの少しだけ小さい白の塊がちらついていて、一つ奥の山のてっぺんが真っ白になっていた。いい匂いがした。
事ある毎に噛み合わせを気にする。もう長い事違和感のある右の奥歯を気にかけながら、今日も1日が始まる。


自宅の目の前のバス停に丁度バスがやってきた。 近所のリハビリセンターに通う彼が、車椅子に乗ってバス停の横に停まった。
きっと、数え切れないくらいバスを利用しているのだろう。片田舎のバスに昇降スロープなどというものがある筈もなく、運転手はほとほと愛想の尽きた様な表情をして、車椅子の前輪を上げた。 そんなに露骨な顔をしなくても良いのに、折角いい匂いがしたのに、。


今日1日、の2人の気持ちを
今日1日、僕が勝手に気にかけて
今日1日、何だかどんよりしたまま過ごす。









噛んだ覚えのないストローに歯跡が付いているのを見た時、口いっぱいに含んだレモンティーで口の中を濯いで、そのまま、飲み込む。
ほんの僅かな渋味と酸味で、滅菌した気になる。 

心なしか奥歯の痛みが増した様な気がしたが、今日1日、どんよりするよりましである。







































































♪食卓/tricot



塩辛定食を背負って








病院の廊下を、 しゃん としながら歩いた。
誰も僕を見る事はしなかった。

もう使わなくなったテレビカードを清算するために、ナースステーションの横を抜け、休憩室の入り口の横にある清算機へと向かった。
残金は七百何円だった。  
殆ど使ってないなぁ。 そう思った瞬間、緑色に発光した数字が急に滲んだ。



千円分のカードの内、使った三百円程は恐らく、昨日の夜に夜通し付き添った婆ちゃんが深夜の眠気と現実を吹き飛ばそうと使用したものだろう。
爺はテレビ、見れるような状態じゃなかったもんなぁ。

テレビカードを清算して、部屋にかえってきた頃には沢山の親戚が狭い個室に押しかけていた。
薬を飲んで咳ばかりしていた為か、異臭が漂う病室の匂いと親戚中の古めかしい匂いがひとつの部屋で混ざり混ざって鼻の奥を刺激した。




「4の付いた部屋ってないね」
「当然でしょ、縁起悪いもん」
以前は納得していた。極限まで追い込まれた人間と家族の気持ちを精一杯汲み取った故の予防策なのだと。

でもほら、どうだ。
4の数字が入った部屋じゃなくても人は死ぬ。
所詮は生きた人間が死にゆく人間の為に作った自己満足な決まり事なんだろう。








違う。悪いのは誰でもないのだ。むしろ病院ではない事は誰が見ても分かる程だ。 

土壇場にきて、他人を卑下する事でしか自分を保てないのはやはり寂しい。




鮮明に憶えているのはここまでだ。
後は忙しくて肝心な所は記憶に無い。

ただ、爺は沢山の人の記憶の中に存在していたんだなぁ。と、全く知らない親戚や知人が訪ねてくる度に思った。愛されていたのだろうか。そうだといいなぁ。わざわざ来てくれたのだから、きっとそうであると信じたい。







最近めっぽう寒くなったのはただただ気温のせいなのか。
家族全員がほんの僅かなささくれだった違和感を共有しながら、これからも日々は続いていく。













































































♪霹靂/BRAHMAN


振り抜け、さらば与えられん








ミサンガが、切れた。






4年前から左腕にミサンガを二本つけていた。
太いやつと、細いやつ。
そのミサンガは石巻へい輪プロジェクトで作られたもので、被災にあった漁網を使って作られたものであった。
一つ一つ丁寧に包装されたその袋の中には、内職でこのミサンガを編んでくれたお母さんの名前が記載されていた。
4年前の僕は当時先が見えなかった復興の願掛けをして、固い結び目を作った。


これまで余った紐の部分が千切れたりはしたが、長い間結びが切れる事は無く、それは嬉しくも悲しくもあった。

買った時に「これは三陸沖の網で作られたものなので、もし切れた時は海に還してあげるといいですよ」と言われた。

これでまた、行く理由が出来た。
そして新しいのをまた買って手首に付けたい。願いと、決意と一緒に結びたい。
二つ目だから、少し欲張りな御願いを結んでも良いだろうか。
もっともっと笑える様になって欲しい。




少し涼しくなってきたけれど、海辺まで行って、裸足になって、元の海に還しに行こう。

宙ぶらりんになったボロボロの紐と網の塊には机の上はやはり似合わなくて、青々しい三陸の海が越しに透けて見える様だ。




















































You say GOOD BYE/SpecialThanks


大湿気時代




東北は未だ梅雨明けしていないらしい。
本日、37度。
こんな梅雨もあるのだなと腋汗を滲ませながら思う。


クーラーの風に当たると何だか体と、地球に悪い気がして、専ら僕は扇風機派だった。だが幾ら強のボタンを押したとていつもの冷たい風が吐き出されるわけでもなく、周りの熱を巻き込んだ温く、気怠い空気の塊をぶつけられるだけだ。

今年の夏、いや梅雨は、暫しクーラーに頼らざるを得ない。人工的に排出した、やけに産業的な冷気を体に受けつつ、現代社会の暑さに負け、地球温暖化を加速化させてしまっている志の弱いその他大勢の内の一人になってしまったという罪悪感と嫌悪感に塗れて日々を乗り過ごすしか無い。

































































♪My Instant Song/MONOEYES

メンタルスムージー





暇 っていうのが嫌で。
友達に誘われた時も「空いてるよ」って答えてきた。
たとえ暇?って聞かれたとしても暇って言いたくなかった。

なんだか自分が価値のない人間だと言っているみたいで。隙間を埋める友達すらいないと思われそうで、嫌だ。


暇だー。って言える人が素直に羨ましい。
この人は余計なことを考えて思考を閉じたりしないんだろうな。
この人は飾り気の無い素敵な人間なんだろうな。
こういった人の方が何だか近寄りやすくて、親しみやすい、みんなに好かれるんだろうな。




大きいナルシズムに苛まれた小さい器の人間。
一番客観視出来ているのはいつも自分自身だ。





































































♪Super Young/NUMBER GIRL

錆々、煌々








家の裏口を開けると虹彩をぎゅっと絞らなければ、そこさえも見えない程外が明るい。



薄汚れたサンダルを履いて、砂利の上を歩いた。陽や草、土の匂いが心地良かったから、壁に立てかけられていた折り畳み椅子を拡げてそこに座ってみた。

暖かい日は命の匂いがして、四つ足の内一つが壊れている様なガラクタに座っているだけでも細胞が起きていった。




県外ナンバーを良く見かける頃、自分が当たり前にそこにいる違和感に何だか居辛さを感じる。勝手にやってきたのはそっちなのに軽自動車の黄色いプレートが、やけに大きい顔をしているように見えるんだ。


刺すような光も、熱も、心の底にある陽気を引っ張り出してくれる訳でもなく、只々鬱憤だけを積もらせる。







駅のホームから見える茶色と緑のコントラストが好きだ。蛞蝓の様な、這いつくばった暑さもほんの少しだけ和らぐ。

優先席に座り、ベビーカーに話し掛けながらマテ茶を飲んでいるふくよかな貴女。
あなたにはきっと梅雨なんて来ないだろう。











































































♪気ままラブソング/高橋優



サマーニットに頼らざるを得ない








今日も今日とて腋汗がとどまるところを知らず、運動不足と老いを感じずにはいられなかった。

元々激しくあせっかきだったけれど、20歳を超えてから腋の代謝が凄まじい。
なんなら暑くなくても腋が湿る。
何なんだ。気持ち悪い。灰色のTシャツ着たいのに。紺色のTシャツ着たいのに。
白と黒ですら腋汗見えるし、やだなぁ。
汗腺引き千切ろうかなぁ。




1年ぶりにアスファルトの焼けた匂いがして、あぁ、また億劫な季節が来るのか。
夏が楽しみだったのなんて、オレンジレンジを聴いていた頃迄だ。

寒くて冬は嫌いだし、汗かくから夏は嫌い。しかも今から梅雨。天パの僕は前髪がとんでもないことになる。嫌だ。梅雨生まれなのに。


こうして22年程生きてきても、好きな季節は減り、嫌な部分ばかり見えてしまう。どうせ何度も来たる季なら好きになった方が得だろうに。


明日も、スーツ。
うだるような暑さの中、くそつまらない質問に対して如何にスマートに答えるか。これがカギとなる気がする。

好きな食べ物を聞かれたら何って答えよう、
冷奴か、素麺かな。
んん、スマートでクールだ。
























































































♪swim/04 Limited Sazabys